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DV被害者 T.Iさんの体験談

 

DVによって家庭崩壊した家庭がどのようにして修復されたか、被害女性がステップの加害者プログラムで語られました。
今回原稿を頂きましたので、長文ですが原文のまま掲載いたします。
同じような境遇の方々が1人でも多く救われ癒され安心できる家庭が築かれますように心から願っています。

【ステップを知る前の家族の関係】
 私は、結婚後から夫が私に対して見下した態度があり、家では機嫌が悪くなり何かあるとキレて怒鳴られたりすることに驚き戸惑っていました。それでもこの人は不器用な部分があるから、自分が丁寧に寄り添って話し合いで調整すればいいと思っていました。
 しかし夫との会話は、思い込みや誤解がよくあり、ちょっとしたことを調整しようとしても意思疎通がうまくいかず、夫は私が何か言うと否定されたと感じるようで怒り出してしまいます。また自分で稼いだお金を他人(家族)に使われることや、急な予定変更などが苦手で、時に怒鳴ったり顔を近づけたりして殴ろうと威嚇するなどの攻撃的な行動があり、どうしたらよいものかととても困惑していました。

 私の育った家庭では、高校に上がったくらいからは言い争いもなく楽しく生活していたので、こんなに身の危険を感じることが家庭で頻繁に起こるものだろうかと驚きましたし、とても疲れました。
 子どもが生まれてからは、もともと体力のない私は、肉体的にも精神的にも余裕がなくなり、夫に丁寧に対応することが難しくなりました。
 また子どもが赤ちゃんであっても敵意が向けられ、人格を否定するような恐ろしい暴言を吐かれたり、目の前でおもちゃなどを壊されることがありました。しょうがない出来事やちょっとした失敗でもその時の気分で酷い暴言を吐くので、家庭は安心できる場所ではなく、いつ夫の怒りが爆発するかわからない緊張感がありました。「そのような環境は子どもの成長にとても悪いことなのでやめてほしい」と何度も訴えましたが通じませんでした。

 本人には自分の言動がおかしいという自覚がないため、「仕事で疲れてるのに怒らせるようなことをするそっちが悪いんだ!」と激昂されて話し合いにならず、状況は変わりませんでした。子どもや私の心は深く傷ついたまま、時はあっという間に過ぎました。
 そのうち疲れ切って抵抗する気力もなくなってきて、子どもは父親を避け、私は地獄のようなこの地上での夫婦生活を早く終わらせ死んで楽になりたいと心の中で思うようになり、まともに会話もしなくなりました。子どもは父親のような酷い人間には絶対なりたくないと何かある度に言っていました。
 夫が反面教師になり、子ども達は小さい頃から、家事などに奮闘する私をとてもよくそばで手伝って助けてくれ、優しくて気が利き私にとって頼れる存在となっていきました。夫以外の4人では会話も弾み穏やかで楽しい時間を過ごしていました。

【家庭崩壊となる出来事】
 長男が思春期になると、父親の理不尽な言動に多少抵抗するようになり、そうなると夫も怒りが倍増していました。
 そしてとうとう高校2年生の夏、息子が長時間の勉強で疲れて帰ってきた夜に、夫から理不尽な言いがかりをつけられ、息子は落ち着いて返答していたものの、夫は「自分に口答えするのか!」と人格を否定するような暴言を吐きだしました。長男はそれをずっと我慢して聞いましたが、途中で「もう疲れた…」とつぶやいたと思ったら、家を飛び出してしまいました。
 
 私はこれはまずいと感じ、すぐ次男と探し回りましたがなかなか見つからず、何度も電話をかけ声を上げてそこら中を探し回りました。結局長男は橋から飛び降り自殺をしかけていました。
危機一髪のところで電話がつながり、何とか引き止めることができましたが、長男はその日は絶対に帰りたくないと家に戻りませんでした。
 私は長男に、気持ちが落ち着いたら必ず家には戻るように、あなたが大切だから絶対に死なないでほしいと伝え約束して、次男と家に戻りました。

 その時も夫は「何してきたの?」という感じで寝転がっていました。また自分に従わない長男に正しいことを言っただけなのに、なぜ長男が家出に走ったのかわからないという様子でした。私はそんな夫に対して怒りが込み上げました。
 長男はその翌日早朝に帰ってきましたが、一晩中歩き続けたようで、足が血だらけになっていました。

 この出来事が発端となりその後長男は部屋から全く出れなくなり、あらゆることに恐れ怯え、父親の言動など聞こえたり思い出すと発作を起こすようになりました。長男は複雑性PTSDの発作を発症してしまったのです。しゃべれない、食べれない、眠れない、呼吸以外何もできない生きた屍のような状態となってしまいました。
 快活に友達と遊び、部活動や学業を頑張っていた長男の今までの姿は消え、彼の心は壊れてしまいました。大好きな学校にもどこにも行けなくなって、私以外の人と関われなくなりました。

 私は、彼のそんな姿を見て、胸が張り裂ける思いでした。彼の心を守るためにもっと早く何かできたかもしれないと自分をとても責めました。自分がされるより息子が傷つけられ苦しんでいることの方が辛く、今までに感じたことのないほどの悲しみと苦しみを感じました。私はそれ以来彼の命を守ることを最優先にして、まず状況をわかっていない夫を家から追い出しました。そして専門機関を探し、学校や専門医などに状況を説明し助けを求めました。

 臨床心理士からは、それは長男の優しく真面目で敏感な性格と、長年にわたる父親からの虐待行為が原因で、家では父親への恐怖と、困っている母親を助けたい思いで、自分や他の家族を守るために常に緊張状態で、早く大人にならざるを得ず、のびのび成長するべき子ども時代から、本来の自分を押し殺し無理し続けた結果、遂にあの日に蓋をしていた怒りや恐怖や悲しみが溢れだし、それに精神が耐えきれず壊れたのだと言われました。
 また夫の言動を伝えると、未だ自覚がないので変わることは難しく、攻撃的でもあるので、夫の虐待をこの先も受け入れたり許してはいけないこと、また家族の精神が壊れる可能性が大きいため、すぐに離れて安全な距離を確保しながら弁護士などを通して離婚する準備をするようにと勧められました。

 後日それを夫に伝えました。夫は少し自覚し焦ったようで、長男に謝りたいと言い出しました。部屋の前で小さな声でならいいと許可すると、長男の部屋の前で扉ごしに謝って戻ってきました。夫にどうだったかと聞くと、「長男は自分を心から赦して謝罪を受け入れてくれたのがわかった」とむせび泣いていました。
 ただもともと痩せていた長男はさらに痩せて骨と皮だけになり、重度の鬱状態と不安障害で心療内科から薬が処方され、しばらくは危険な状況でした。

 夫は通院代や生活費などの金銭的なところは文句を言わなくなりました。別居に対してや私の言い分や医者からの言葉に不満はあったようですが、離れて寂しかったのか離婚はしたくないようでした。
 私は息子に寄り添って、死に物狂いで看病して数ヶ月が過ぎました。やっと長男が薬で眠れ、食べれるようになった頃、今度は自分の自律神経が乱れて、脳もうまく働かず心臓の働きも悪くなりました。字も読めず計算もできなくなって職場に迷惑をかけるようになり、病院で何かをやめないと過労で倒れてしまうと言われたので、やりがいのある仕事でしたがやむを得ず休職することにしました。その頃はフラッシュバックが起こったり悪夢を見て眠れず動悸で体調も悪く、自覚のない夫に対しての拒絶感もとても強くなり、息子と同じ心療内科に通うようになりました。私の人生もめちゃくちゃになったなと感じました。家族関係はどん底まで落ちました。

【ステップとの出会い】
 どん底の中考えたのは、専門家から勧められた離婚です。ですが、長男はとても優しい性格のために、自分のせいで親が離婚して家族がバラバラになるというのには耐えられないだろうと感じました。また、自分もそれは本当の問題解決ではないと感じていました。ですからしばらくは別居を続けることにして、自分がしてきたことの自覚を促すために、夫のための認知行動療法のようなものがないかと探し、インターネット検索でステップを見つけました。
 理事長先生の記事や更生された方の感想を読ませていただき、加害者の方が驚くほど変化していることにとても驚き感動して希望を感じ、すぐに電話をしました。

 電話で話を聞いてくださった理事長先生の温かい言葉に、ずっと感じていた恐怖や孤独感が解けていき、やっとわかってもらえるところがあったとホッとしました。
 理事長先生は、涙を流して話を親身に聞いてくださり、「辛かったですね、本当に大変な状況をよく頑張ってこられましたね。それは犯罪です。そして加害者が変わらない限り、家族は苦しみ続けます。でもね、加害者は変われますよ。変わった加害者が沢山いますから安心してくださいね。家族というのは器のようで、元の新品には戻らないけど、金継ぎをした器のように、さらに魅力が増し関係を強くすることができますよ。あなた達家族は大丈夫。これから一緒に頑張っていきましょうね。」と、とても優しく頼もしい励ましの言葉をいただきました。
暗闇のどん底にいた私の心の中に大きな希望の光が差し込んだようで、涙が溢れました。

 私も大切な子どもや自分の心を守るために別居を選びましたが、決して家族がバラバラになりたいわけじゃありませんでした。カウンセラーや精神科医の勧めのまま別れてしまうのは、私達家族にとっては本当の問題解決にはならないんです。渋る夫を説得し、加害者更生プログラムのグループでの週一回のオンラインワークを申し込んでもらいました。

【ステップを受講してからの変化】
 夫はステップを受講して、自分の考え方の癖について学んだり、被害者の気持ちや状態について学んだり、同じような境遇の方の経験を共有してもらうことで、少しずつ気づきを得て、自分が家族にしてきた加害の自覚と反省が進んでいるようで、彼の内面が変化しているのがわかりました。
 私もしんどい時はダイヤモンドの会(被害者の会)に参加して、悩みを吐き出して共感してもらうことで救われていました。
 夫は日々ステップで学んだ理事長先生から勧められる選択理論を実践して訓練していきました。本も買って何度も読んでいました。それを一年実践し続けて自分のものにできてからは、人が変わったかのように、ネガティブなことを言ったり怒ったりしなくなり、周りの人を尊重するようになりました。

夫自身も、生活の様々な場面で考え方が柔軟になり、人間関係が楽になったとのことです。これは驚くべき変化でした。人はこんなに変われるのかと本当に驚きました。やっと夫と心が通じて、パートナーとしての会話を安心してできるようになったとも感じました。恐怖も怒りも次第に消えて、自分の孤独感も解消されて、私の心も安定していきました。同じように長男も少しずつ安定していきました。

 夫が更生したことで家庭に不和が無くなり、夫がいても穏やかでとても落ち着いた状態になったので、少しずつ症状が落ち着いてきた長男の様子を見ながら、完全別居から通いにして、一年半が過ぎたころには少し寝泊まりするようにして、今は同居が可能なまでになりました。
 長男も再び通学できるようになり、友達や先生にも癒されて少しずつ回復し、今は波はありますが、無事に高校を卒業することができ、希望していた大学にも合格することができました。

 これは私達家族にとって大きな奇跡でした。長年悩んで警告してもどうすることもできなかった崩壊した家族関係が修復され、息子が人生を取り戻したのです。
本当に理事長先生とステップのプログラムには、私と子どもの命を、そして夫の人生を救ってもらったと言っても過言ではありません。

 このような素晴らしいプログラムを長年続けてくださり、どん底に落ちた沢山の家族を見捨てず、愛の手を持って優しく引き上げ救ってきてくださった理事長先生には心から深く感謝しています。また同じ志で親身に助けてくださったスタッフの皆さまにも、共に経験や痛みを分かち合い支えてくださったグループの皆さまにも心からお礼申し上げます。
 そして死にたいほどに傷つけられても生きることを諦めずに頑張ってくれた長男、私に言われるがままに努力してくれ変わってくれた夫、大変な兄や私をそばで支えてくれた次男や娘にも心から感謝しています。

 1人でも多くの方がステップにより更生して、また家族として再生できますように、優しい子ども達が1人でも多く救われ癒され安心できる家庭で育ちますように心から願っています。本当にありがとうございました。
   T.I

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